「ヒューマニティーを稼働ロジックにした新たなビジネス」として、高山さんは会社と離れたチャレンジをしている。その想い、社会や私たちへの愛にあふれたメッセージ。最終回
(1)「共感が自分を変え、やがて社会を変えていく」。エーザイ㈱ 知創部フェロー 高山 千弘さん
(2)「世の中を変える、ではなく自分を変える」。エーザイ㈱ 知創部フェロー 高山 千弘さん
PROFILE
高山 千弘さん エーザイ株式会社 執行役員 知創部 部長、現ナレッジクリエーション・フェロー。医学博士 経営学修士。1982年東京大学薬学部卒業後、エーザイに入社。1992年海外へ留学、英国にてマンチェスター大学MBA(経営学修士)を取得。1994年米国勤務にて治療スタンダードとして世界初のアルツハイマー病治療剤の臨床試験、FDA申請、承認を担当。1998年日本に帰国後、同治療剤の厚生労働省への申請、承認を統括する。責任者として、普及にとどまらず、アルツハイマー病などの認知症の社会的な疾患啓発活動と、受診・診断・治療・介護において認知症の人とご家族の支援を目的とするソーシャル・マーケティング活動を統括する。
知創部での知見を活かし、ベンチャーでの新たな構想
高山 千弘さんは現在、エーザイの仕事とは別に、対象を難病の方々に向けた新たなベンチャー企業を興して活動をしている。「難病の方々に対してどういう方法が良いのか?と考えたとき、方法論がベンチャーでないと成しえないものだった」と言う。事業内容は、アプリを開発し、新しい診療体系としての受診スキームを構築するものだ。アプリを用いて、患者は自ら日々の詳細なデータを記録していき、医者とシェアすることができる。医者は共有されたデータを統計的なものとして利用できるため、患者の状況を即時に把握することが可能だ。「そうすれば、治療方針もすぐに判明するし、きめ細かい遠隔診療をも実現できる」とし、従来の遠隔診療と違い、既に蓄積された豊富なデータをもって診療をするため、患者ごとに適切な治療方針が立てられるというわけだ。
ここでも高山さんがエーザイの知創部で培ってきた知見が生きてくる。「診療だけに限らず、生活まわりなどクウォリティ・オブ・ライフを向上させるソリューションも見いだせる。もっと豊かにしよう、という発想が生まれてくるからだ。患者様同士、患者様のお母さん同士というコミュニティも存在するはずなので、その連携がうまくできるようにしていくつもりだ」。これは医療サイドでも同様で、コンソーシアムをつくれば医者同士でのデータのやり取りが可能となり、新たな治療法や解決策の発見にも期待ができる。将来的には賛同する企業から資金を集めることも視野に、「これを、最終的には全体をひとつの経済圏としていく構想で動き始めている」。
経済圏というのはお金の面というよりは、「“感謝の経済圏”だ」。患者から医者へ、患者の親同士、医者と医者の間で、感謝の気持ちを表す方法論をこのスキームに組み込こむことで高山さんは、難病患者、家族への活動をさらに次世代型へ昇華しようとしている。「ヒューマニティーを稼働ロジックとして、資本主義や市場原理にビルトインしていくという、まさにそのことを今、ベンチャーを通してやっていることだ」。
「エラン・ヴィタール(愛)」を原動力に、開いた社会とは
“個” が閉じた社会では、支配や防御で互いに拮抗している。その状態を続ける限り、貧困や格差は生まれ続ける。これを解決していく最初の一歩が、開いた社会にしていくことだと高山さんは考えている。手がけているベンチャーでの活動は、そのひとつの解決策の提示と言えるのではないか。では、社会を開いていくとは、どうしたらよいのだろう。
「エラン・ヴィタール、愛を原動力として我々人類は変わっていかなくてはならない。そう、知性を超え、直観に向かって」。人に対して愛情と思いやりを人間性原理のヒューマニティーとして共感したとき、「我々は同じ地球のなかで、地球のシステムの一部として自分たちがいるのだと考えられるはずだ。そうしたとき、人類75億人はみんな地球の同じ仲間であり、共に地球を支えていこうという意識になっていく。そこには、誰が勝ったとか負けたなどはなく、貧困や格差で苦しむ人たちに手をさしのべることはごく自然の営みとなるだろう」。
格差に対してベーシック・インカムを与えればいい、という声があるが、「本質的には愛だ。愛をベーシックにしなければ解決などしない」と語る熱意が伝わってくる。さらに、「人というのは、内在的自己と外在的自己とがある。どうしても、資本主義の経済合理性を追求するために、僕らは外在的自己になりきってしまって、自分の評価を高めたり、エゴを発揮したりしてきた。孟母三遷の教えのように、愛情を子に与えるのではなく、子どもが持つ素晴らしい内在的自己に気づかせることこそが慈愛なのだと思う」と続けた。
では人類が今後、内在的自己を開花させる方向に向かうことで開かれた社会が実現するとしたら、企業の在り方も問われるべきだ。しかし、「企業のCEOたちが変わらないので、悩み葛藤する若者を僕らは応援しなくてはいけない。それが『WaLaの哲学』ということ」。こうした社会の到来は、高山さんの夢なのだ。
まず自分が動くこと。 “知識創造理論”を手掛かりに
最後に、企業の枠を超えたたくさんの後輩たちへメッセ―ジをいただいた。
「今、自分が “個” を開く、というところから実践してほしい。そのときにポイントとなるのは、人と人との関係性が自分を変えていくということ。僕が望むのは、“今、助けを求めている人” と出会うこと(共同化)で共感から気づきをもらってほしい。もし、自分が社会を変える原動力となりたいのなら、いろんな気づきをもらって、その方のために努力していくことで “個” は開いていく。
僕はビジネスを否定しない。たまたま会った人を助けるだけならボランティアだし、きりがない。そこからビジネスに巻き込んで、もっと多くの同じ環境や境遇にある方に対してどうすればいいか?を考えれば、ヒューマニティーを稼働ロジックにした新たなビジネスが誕生するはずだ。もし今の勤務先に失望していたとしても、文句を言っても仕方がない。まず、自分が動くことだ。その道案内に “知識創造理論” を学んでほしいと思う。自分一人の力では限界がある。当然人を巻き込むのだけど、全員が共同化していることが大原則だ。僕は、14年経験したなかで同じ想いの組織や人が集い、ソリューションを見出そうという連結化にひとつも失敗がなかった」。
昨今、“共感”という言葉をよく耳にする。しかし、高山さんの語るそれが内に秘める、パワーと情熱や愛を感じるとき、一身を投じ、追求してきた人が発するからこそ言葉に魂が宿るのだと再認識した。
高山さんの語る言葉のすべてに、「新しい社会の実現」を信じて行動し続ける人の真実がありました。我々後輩たちは、そこから何を学び、そして自分を変化させていけるでしょうか。
お話に出てきた野中 郁次郎氏による「知識創造理論」や、エーザイの事例も紹介されている書籍「ワイズカンパニー」も参考図書としてお薦めいただきました。
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