人事部長時代、守りの採用を避けて “面白い才能” に出会う風土をつくった。会社を自分事と捉えるからこそ、建設的批判的な視点で観察していく。第2回
PROFILE
妹川 久人さん 日本たばこ産業株式会社 執行役員 サステナビリティマネジメント担当。1995年入社。物流、営業を経験した後、財務省出向。その後、経営企画、事業企画などで国内たばこ事業の中長期戦略策定・実現の一端を担う。2015年より人事部、人事部長として新たなHR戦略を率いた後、2020年より執行役員サステナビリティマネジメント担当。
世の中の変化をダイナミックに自社採用へ投影
「こんなに常識って違うのか」。妹川 久人さんが人事部長時代にいろんな世代に話を聞きに足を運び、とりわけZ世代の若者たちに接したときの感想だ。かつて、「まだまだ狭い視界で生きていた」と語る妹川さんは、「自分のこれまでの体験や常識なんて…?」という疑問が起点となり、少しずつ社外へと意識を向け始めると、一層「JTというのを自分に置き換えて主語にしてみると、いろいろと、またこれまでとは違った “大丈夫かな?” ということが見え始めた」 のだった。会社員人生の前半戦は、多くの人がそうであったように血気盛んに上司にもぶつかっていく。しかし、この会社には、徹底的にやり抜く姿をいつも見てくれている誰かがいてくれたことはわかっていた。「不器用かもしれないけど、一人ひとりに寄り添おうとしている会社。これが人事での改革でも大切にした想いだ」とし、「個人を大事にする」、「個人にどう寄り添えているか」を新たなHR戦略の基本線に敷いたのだった。
「組織に個人を合わせる時代はもう終わっている。むしろ、いろんな個人・個性に組織が合わさっていくというように、大きくシフトチェンジするべきときにある」。躯体の大きい企業でそれが可能なのか?と問うと、「いや、大企業だからこそそう思えた」と答えた。それはシンプルな問いから始まる。建設的批判的に考えてみたとき、こと “人事” の領域で観察してみるなら、人事制度も人材マネジメントも基礎設計は20世紀の右肩上がりで成長していた時代のものがベースであったからだという。「21世紀に入って、仮に日本ひとつを取っても、総人口のピークアウトを迎え、人口低減モデルに変わっていて環境も大きく変化した、いわば社会課題先進国である。それにも関わらず基幹人材マネジメントシステムが同じものであるはずがない」。さらに「しかも、AからBへ世代がごっそり変わるのならBに合わせてシフトすればいいだけの話。ところが異世代同居だから面白い」と続けた。
個人の多様性や就労観にはいろいろな価値観がある。そこで妹川さんは、「“一見” これまでのわが社には合わないかもしれない人、に徹底的に会いに行きました。半分開き直りもあったかな(笑)」。そこには、今日明日の会社都合に合う人財を集めて同質性をつくりあげることは、会社の将来性を考えると危ういことだという考えがあった。これは配下の社員たちにも「いい意味で、困るような人を連れてきて」という指示となる。こんな型破りなミッションを飛ばす部長、孤軍奮闘にならなかったのだろうか。「当時のメンバーはみんな、戸惑いもあったかと思うが、僕を支えてくれた。迷ったら今までと反対のことをやろう、というムードは醸成されていた」と言う。変化のために、進化のために、という旗印のもと、世の中の変化を肌で感じながら一見型破りだが、このうえなく「JTのDNA」がさく裂した人事部が生まれていった。
“全乗っかり” スタイルで組織コンディションのタクトを振る
2021年現在、そうした採用はどう効いてきているのか。「その結果をどう評価するか、を語るにはまだ少し時間が要るでしょう。個々人が、少なくとも地に足がついてバリューを出せていると認知されるのは、人によってさまざまであろうから」とのことだった。また、採用に留まらず、さまざまな変容を想起しつつも、妹川さん流の方針を打ち出すまでに、本当に適しているのかを1年間観察することに徹し、メンバーが自発的に言うことすべてにまずは「乗っかる」ことで組織コンディションのタクトを振っていった。今は入り込むべきとき、逆にここは引くとき、と「組織も個々人の集まり。一人でも異動があったら、僕に言わせればまっさらに戻る。じゃあ、そんななかでどういうふうに組織の温度感をつくるのか。役職の文脈では、どういう距離感での関わりを持っていくべきか」と、秒単位で変わる組織の温度を肌感覚で調整していった。“組織に個人が合わせる時代の終わり” と語った視点は揺るがない。けれど、「あなたにやらせる、合わせるよ」と言うのはある種の人には恐怖かもしれない。なぜなら「これは健全な大人の関係だよ」ということを前提にした組織論だからだ。
サステナビリティ “マネジメント” への強い想い
人事部での改革に目途がつくと、サステナビリティマネジメントへと軸足を移す。人事部長時代の妹川さんの上司の担当役員と、「“サステナビリティ”を束ねる・司るような部隊が必要になるでしょうね、と会話を交わしたことを記憶しています」。その後、その部門が新設され、後に自身も担当役員に就くことになったのだが、「マネジメントと付くことが僕のなかでは非常に大きな意味を持っている」とのこと。サステナビリティマネジメントとすることで、「例えば、社会で “善かれ” と言われていることに対しリアクティブに対応し会社にインストールするだけならば、せいぜい20点か30点止まり。そうではなく、これからの “善かれ” をどう見極めて、あるいは創出し、どう自分たちに置き換えて武器としていくか?」まで考えることになる。ある意味、今はまだ認知されていないものをどうやって新たな価値観として創り出していくか。「どんどんそちらに舵を切っていければ。そうしないと、長い時間軸のなかでは、今日的な“善かれ”への対応は一過性のブームに過ぎないかもしれないから」。
「地球とか自然とか、そのなかで “生かされる我々” という前提があると考えています」としつつ、まなざしが鋭くなる。JTが、JTだからこその体験と考え方が込められているのだ。
第3回へつづく
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