外に承認を得る生き方を止め、自分自身の地図を手に「生きやすさ」を見出してきた齋藤 有希子さん。彼女が考える働く意味、リーダーシップについて聞く。最終回
PROFILE
大学卒業後、国内最大のシステムインテグレーターに入社。HR業界のシステム開発に従事し2009年から2年間、中米ベリーズで海外協力隊に参加した。PCインストラクターとして現地の子どもたちと関わるなかで人生観を揺るがす衝撃を受けて帰国。帰国後はプロジェクトマネージャーとしての仕事と、社内人材を対象とするコミュニティマネジメントなどに携わっている。
やりたい仕事は自分でつくれるようになった
2020年は世界規模で大きく揺らいだ時代の始まりとも言える。コロナ禍によって「仕事はフルリモートになって、仕事もプライベートもコントロールできるようになった。 “自由” って、“自主自立” 、“自分に理由がある” ってことだと実感している」。この、“自由” を選択できる幅が広がったことに今、心から満足を覚えていると言う。「仕事にしても、自分でつくりにいきたい。やりたいと言い続けているとダメと言われることがない今だから、やりたいことの時間配分を自分でつくっていける」。
きらきらした瞳に情熱を宿して語る齋藤 有希子さんだが、「もちろんまだ追求していきたいことはある。大きなテーマで言うと “いのちを輝かせて生きる” ということ」。このテーマは、前回で触れた社会人のためのアカデミア『WaLaの哲学』の講義のなかで自ら見出したものだ。彼女が得た発見として「生まれてきて命を表現する手段が、“働く” ということなのではないか、と思うようになってきた」。言葉の成り立ちを見つめ、「働く(はたらく)」を分解すると “傍(はた)を楽(らく)にする”、“にんべん(人)が動くこと” すなわち “行動する” と解くならば、「この世界に生きるうえで、広く社会でも顧客でも、同僚でも家族でも、自分の周囲をどう楽にできるか?エンパワーメントできるか?が自分のなかで働くということかな」と言うと少しだけ真剣な面持ちに変わった。
「自分一人」では成立しない、幸せへの思い
有希子さんの “働くことで、幸せになる” という思いに、周囲の仲間の存在は欠かせない。満足を得るにも自分だけの “楽” では成立しないのだ。
「関わるみんなを幸せにしたい。その価値観しか知らないので」と、さも当然のように言い切る姿に旧世界のリーダーシップと確実に異なる在り方を感じた。けれど本人としては、「これもひとつの考え方に過ぎなく、従来型の引っ張っていくリーダーシップというのも組織では求められるものだ。反対に自分は、その点で弱さを感じることが多いので、掲げるリーダーシップにおいて目に見える成果が持てていないことが悩みでもある」とあくまでも謙虚だ。
「もともと自分と違う価値観の人の話を聞くことが楽しくて。だから、“そう来たか!” みたいにワクワクしてしまうところがある」と語り、短期的な成果よりも長期的に見たとき、価値観が違った人たちが「ありがたいことにみんなが助けてくれる。“ 自分の苦手なこと困っていることを相談すると、周りの人達が助けてくれる。本当に周囲に支えられている」と言いながら、「でも、リーダーにズバッと決めてほしい人もいるので、これがただ一つの正解とはまったく思わない」と続けた。あくまで他者の在り方を尊重するのが有希子さんらしい。
働く、暮らすはつながっている
もう少し有希子さんの求める “働くことで、幸せになる” 道すじについて聞いてみる。
組織にいると役割やそれに伴う責任がある。「やりたくなくても稼がなくてはいけない。でもそればかりだとサステナブルではないので、今までは、仕事とはそういうものだとそればかりに集中してきたせいで、どんどん疲れて燃焼してしまった」。働くことは生活の糧を得る手段(ジョブ)と、成長や地位や責任のため仕事(キャリア)、社会的な使命感(コーリング)の3つの要素があるのだとすると、「今後コーリングの部分を少しでも増やしていけると満足度が上がると思っている」。
そのためには自分のなかで [ジョブ・キャリア・コーリング] に紐づく作業の割合や調和を図っていくことが大切で、そうした観点からもコントロールが働くようになった現在は、目標とする道の上にいると言えよう。「正直言うと興味がなくやりたくない業務もあるが、期間や稼働の割合を調整できるようになった。コーリングとやりがい、使命感を感じさせる働く姿に魅力を感じるので、今私はその割合を少しずつ増やしていことを意識している」。
「働くと暮らすは地続きでつながっている」とし、今夢中になっているのは自分の内に向かうこと。好奇心旺盛で行動的な有希子さんなので、一見荒行にも思えるさまざまなワークにも楽しみながら挑戦しているそうだ。「頭ってうそをつくものだから。心と体に聞く時間というか、内面に入っていくことを大切にしている」。自分に向き合うなかで、自然、身体、精神への興味が深まり、「人間が生態系の一部ってことを想定すると、その中にいる人間として、どうあるか?ということに興味がある」と言って、これから挑戦してみたいさまざまなことを、さも楽しくてたまらない!というように語る姿がとてもまぶしく映った。
その時そのとき、ひたすら真摯に向き合い自分の答えを出しながら生きてきた有希子さんが紡ぐ言葉は、しなやかな強さがあります。「関わる人の幸せあってこそ」とする働き方が組織をどう変えていくのか、興味は尽きません。
(1)「人生のなかで、大企業で働くってなんだろう?」大手システムインテグレーター勤務・齋藤 有希子さん
(2)「染まるのをやめて、変えることを選んだ」。大手システムインテグレーター勤務・齋藤 有希子さん
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